科研費等よる研究業績

  1. 「ネグレクト死亡事例における虐待親の認知要因についての研究」
    研究代表者:橋本和明
    令和3年~令和6年 基盤研究(C)(一般)課題番号21K03078
    本研究の目的は,ネグレクトによる子どもの死亡事例には親自身の認知の歪みが大きく関係していると考えられるため,過去10年間のネグレクト死亡事例の検証報告書や保護責任者遺棄致死事件等の判決文,新聞記事を分析対象にし,心理職4名と弁護士3名の研究協力者とともに,事例のメタ分析という手法を用いて解析する。また,分析を通じて,①親の認知はどのような特徴を有するのか,②その認知がどのように生起され,ネグレクト死の前後でどう変容をしてきたのか,③認知の変容となる契機が何か,等を明らかにする。また,研究結果をもとに,虐待介入の際の親の認知をどのように評価し,親の認知をどのように修正させることが虐待防止に有効かを提言していく。
  2. ユニベール財団研究助成による「新型コロナ禍における虐待リスク家庭への対応と課題」
    研究代表者:橋本和明,共同研究者:井上直子
    令和3年4月~令和4年3月
    新型コロナ禍では緊急事態宣言が出されて自粛が要請され,いわゆる三密(密閉,密集,密接)が遵守させられる。虐待リスクを持つ家庭においては閉鎖的で密閉空間となった家庭での育児や養育は高ストレスとなり,さらなる緊張を生んでしまう。本研究では,このような虐待リスク家庭にいかなる対応や支援のあり方が必要かをインタビュー調査を実施して明らかにした。研究でわかったことは,ソーシャルディスタンスと愛着の両立を目指し,物理的に接触しなくても,心理的に接触できるといった対応の工夫をしていくことが必要であること,あいまいな喪失を伴いやすいコロナ禍での愛着の問題を抱えた子どもに,対象がいつもいることを心に刻み込ませるために,「doing」(日本語では「すること」)よりも「being」(日本語では「いること」,「存在すること」)であるかかわりが重要であることがわかった。
  3. JR西日本あんしん社会財団研究助成による「ネグレクト死亡事例における虐待親の認知要因についての研究」
    令和3年4月~令和4年3月
    研究代表者:橋本和明,共同研究者:井上直子,魚住敦子,出水裕史,福田香織,濱田雄久,浜田真樹,中村善彦
    ネグレクトをする親の行動を見ると,情動面だけでは理解できないところが多々ある。そこで,本研究では過去10年間の保護責任者遺棄致死事件の計40の判例を分析対象とし,「事例のメタ分析」という質的研究法を用いて,認知要因のあり方や変容について分析した。カテゴリーを生成し,そのカテゴリー間の構造化を図った結果,注意の優先順位の誤りや注意の遮断,持続性のなさ,分配のなさといった≪注意の問題性≫があることが判明した。また,自己愛的や被害的な認知をしやすく,≪メタ認知能力≫の低さがあったり,子どもへの共感性の欠落などの≪認知の歪み≫が生まれ,それが危険を予知する能力の欠如や認知感覚の麻痺という≪危険への認知≫となって事態がますます深刻化していくことがわかった。そこで,ネグレクトをする親の支援においては,親の認知要因にアセスメントするとともに,認知行動療法等を実施するなどして認知の修正を図ることを優先していくことが重要である。
  4. 「刑事事件における犯罪心理鑑定の意義と有効性についての研究」
    研究代表者:橋本和明
    平成28年~平成30年 基盤研究(C)課題番号16K04399
    本研究の目的は,①刑事事件における犯罪心理鑑定(いわゆる情状鑑定)の有効性を明らかにし,②臨床心理士が犯罪心理鑑定を実施できるスキルの向上とその養成のあり方を検討するとともに,③法曹と臨床心理士との協働のシステム構築を提示することである。申請者は鑑定経験者に調査を実施し,アメリカにおける判決前調査の比較を交えて,犯罪心理鑑定の現状や有効性を示す。また,臨床心理士が犯罪心理鑑定を積極的に応じ,司法臨床領域でこれまで以上に活躍できるためにはどのようなスキルを身に付けるべきかを検討し,望ましい養成課程を具体的に提案する。さらに,犯罪心理鑑定の要請が生じた場合,円滑に臨床心理士がそれに対応できるためのシステム構築と法曹と臨床心理士の協働のあり方も提言する。
  5. 「重大児童虐待事例の精緻な実態と効果的支援の研究」
    研究代表者:山田麻紗子,研究分担者:橋本和明等
    平成27~平成30年 基盤研究(C)課題番号15K04157
    重大な児童虐待事例を分析し,名古屋市児童相談所との研究会を重ね,効果的な支援のあり方を検討している。また,アメリカの児童虐待への支援等を調査するため,渡米をして,ニューヨークやバージニア州の児童施設や少年裁判および刑事裁判の様子を視察した。
  6. 「児童養護施設入所児童の非行予防に関する実証的研究-効果的な支援のために-」
    研究代表者:藤原正範,研究分担者:橋本和明等
    平成25年~平成28年 基盤研究(C)課題番号25380799
    児童福祉施設が荒れや安定を繰り返す要因について分析するため,施設職員のインタビュー調査を実施した。そこでは,施設全体の荒廃を促進する大きな要因に性暴力があり,職員間や職員と子ども間にある非常に固定された関係が影響することがわかった。これらをまとめ,「児童養護施設の子どもの非行理解とその予防に関する研究-児童養護施設職員へのインタビュー調査から-」(橋本和明,小林英義,村尾泰弘,遠藤洋二,藤原正範)として,学術雑誌(日本児童養護実践学会発行,児童養護実践研究)に掲載した。
  7. 「被虐待者の非行化への対応における社会福祉と司法の協働に関する研究」
    研究代表者:藤原正範,研究分担者:橋本和明等
    平成22~24年度 基盤研究(C)課題番号22530642
    児童福祉施設が荒廃する要因の一つとしての児童の非行化があり,なかでも虐待を受けて入所してきた子どもへの職員の対応のあり方を検討した。橋本は,研究報告書の中で,「事例研究から学んだこと,非行臨床における虐待と発達障害の位置関係」について執筆した。
  8. 「発達障害が疑われる非行少年の包括的再犯防止対策」
    研究代表者:田中康雄,研究分担者:橋本和明等
    平成20~23年度 基盤研究(A)課題番号20243033
    児童自立支援施設の職員にインタビュー調査を実施し,児童自立支援施設における生活臨床のあり方を分析検討した。そこでの子どもたちと職員とのかかわりの様子や非行からの立ち直りの手がかりとなる要因を取り上げ,生活の大切さを改めて再確認された。研究成果の一つとして,『児童生活臨床と社会的養護』(田中康雄編,2012,金剛出版)を出版し,橋本は「生活臨床の実践」(pp50-87)を執筆した。